Case 169

30代,女性。骨盤内腫瘤を指摘され来院。

読影のポイント(1)

造影後の脂肪抑制T1強調像(C)において内部に有意な増強効果は見られず,嚢胞性病変と診断される。脂肪抑制T2強調像(B)における信号強度も尿よりはやや低信号を呈しているが,非特異的な液体の信号と考えられる。一見する限り、非特異的な嚢胞性病変である。

図A T1強調像
図A T1強調像
図B 脂肪抑制T2強調像
図B 脂肪抑制T2強調像
図C 造影後脂肪抑制T1強調像
図C 造影後脂肪抑制T1強調像

読影のポイント(2)

嚢胞内容の大部分は拡散強調像(b=1,000)(A)で著明な高信号を呈している。 ADC mapの画像(B)より拡散制限が示唆される。
一見すると非特異的な嚢胞内容でこのように著明な拡散制限を来すものとしてきわめて粘稠度の高い嚢胞内容が疑われる。 代表的なものとして,膿瘍における膿汁や類表皮嚢胞などにおける角化物などが挙がる。

図D 拡散強調像(b=1000)
図D 拡散強調像(b=1000)
図E ADC map
図E ADC map

読影のポイント(3)

T1強調像のin phase(A)とopposed phase(B)を比較すると嚢胞の大部分(拡散強調像にて高信号を呈した領域)はopposed phase(B)で信号が低下していることがわかる。
左後部に非特異的な液体の信号を呈する部分があり,同部と比較すると信号低下がわかりやすい。 通常の脂肪信号を呈する部分は見られないものの,ごく少量の脂肪が含まれる嚢胞内容であることが判明する。

図F T1強調像(in phase)
図F T1強調像(in phase)
図E ADC map
図G T1強調像(opposed phase)

診 断

左卵巣成熟嚢胞性奇形腫

解 説

成熟嚢胞性奇形腫は脂肪を含むことを特徴としており,T1強調像を丁寧に観察することで通常は脂肪が検出可能である。本症例のように嚢胞内容が角化物を主体として脂肪塊が存在しない場合は,診断が難しくなる。
角化物を主体とする嚢胞内容は著明な拡散制限を示し,この点が通常の液体とはまったく異なる。その内部の微量な脂肪については化学シフト画像で検出可能である。
このような病変に関しては通常のT1強調像,T2強調像,造影検査のみでは診断できない可能性が高く,拡散強調像,化学シフト画像を撮像しておくことの有用性が示唆される。

参考症例

液体の内部に少量の脂肪を含む小さなボール状構造が多数浮遊する成熟嚢胞性奇形腫の症例である。内部の浮遊物は化学シフト画像にて信号低下が明瞭である。
今回の症例はこの個々の浮遊物を構成するような成分が一つの嚢胞内全体を占拠した状態であったと考えられる。

参考図A T2強調冠状断像
参考図A T2強調冠状断像
図E ADC map
参考図B T1強調横断像(in phase)
図E ADC map
参考図C T1強調横断像(opposed phase)

【出題・解説】
松尾義朋(イーサイトヘルスケア)