Case 173
30代後半,女性。月経困難症を訴え来院
読影のポイント
筋層の腫大と内部性状
【矢状断像】
子宮は後屈している。子宮体部筋層は全体的に肥厚し,特に後壁の肥厚が強い。肥厚した筋層内はT2強調像(A)で低信号を呈しており,その内部に点状高信号が散見される(→)。筋層内のjunctional zoneは不明瞭化して同定困難となっている。
脂肪抑制T1強調像(B)では,T2強調像における点状高信号の多くは高信号を呈しており(→),出血信号と考えられる。


【横断像】
前述したように子宮体部筋層は全体的に肥厚し,特に後壁の肥厚が強い。肥厚した筋層内の性状も前述した通りである。


その他に指摘すべき所見
右卵巣の出血性嚢胞
子宮体部の右後方に長径30mmほどの辺縁平滑な腫瘤性病変を認める。内部は脂肪抑制T1強調像(E)で著明な高信号を呈しており(→),出血性嚢胞と考えられる。T2強調像(F)では全体的に著明な低信号を呈しており(→),内膜症性嚢胞と診断される。


診 断
Q1:子宮の腫大を来す病態の疾患名は?
子宮腺筋症(adenomyosis)
Q2:本症例における画像診断上のポイントは?
全周性に肥厚した子宮体部筋層はT2強調像で低信号を呈し,junctional zoneが不明瞭化している。病変内部に点状高信号が散在しており,その多くが出血性である。
Q3:他に異常所見は?
右卵巣に出血性嚢胞を認める。T2強調像で著明な低信号であることより,内膜症性嚢胞と診断される。
解 説
子宮腺筋症は,子宮内膜組織が子宮筋層内で異所性に増殖した病態であるが,異所性内膜組織の周囲に平滑筋の増生を来すため,病変部はT2強調像で低信号を示す。内部に見られる点状高信号は,増殖した異所性内膜を反映するとされる。
異所性内膜からは出血を来すため,脂肪抑制T1強調像にて高信号を呈する。腫瘤を形成して子宮筋腫との鑑別が問題となることが多いが,本症例のようにびまん性に広がり,子宮体部の腫大および筋層肥厚所見を呈することもある。内部の点状高信号の存在(特に出血を伴うもの),病変部におけるjunctional zoneの不明瞭化が診断の決め手で,この点は腫瘤形成型の子宮腺筋症と同じである。
子宮腺筋症と診断した場合は,他の内膜症病変の有無もMRIでチェックしなくてはならない。卵巣内膜症性嚢胞,骨盤内膜症あるいはそれによる癒着所見などを詳細に読影する必要がある。
本症例においては右卵巣の内膜症性嚢胞が描出されており,忘れずに記載しなくてはならない。
参考症例1
30代前半,女性。子宮体部前壁にT2強調像で低信号の腫瘤を形成しているが,病変内部の点状高信号の存在,病変部でjunctional zoneが不明瞭化しているので,子宮腺筋症と診断される。

参考症例2
40代後半,女性。全周型の子宮腺筋症であるが,内部筋層主体に広がって外部筋層は保たれているため,junctional zoneの肥厚像として捉えられる。内部に点状高信号は明らかでなく,診断はやや難しい。
後膣円蓋の挙上やS状結腸前面のひきつれ所見など骨盤内に癒着が見られること(A:→),右卵巣の内膜症性嚢胞が検出されていること(B:→)などを参考にすれば子宮腺筋症と診断できる。


【出題・解説】
松尾義朋(イーサイトヘルスケア)