症例10

疾患名・解説
症 例
30歳代・女性 火事に被災し、意識障害。気道熱傷の疑いにて当日CT施行。

Step2

診断名を見て、再度画像診断を検討してください

診断:気道熱傷
(smoke inhalation injury)

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Step3

CT所見、用語(解剖)解説と病変所見のあるキー画像

キー画像の右側の“>”をクリックすると画像上の重要所見に矢印マークが現れ、さらに“>”をクリックすると所見のコメントが現れます。Thin-slice画像や白黒反転での読影にも挑戦してください。


画像所見の解説

CT所見

気管支、肺野
1.喉頭から気管分岐部までの上気道にびまん性の壁肥厚あり。喉頭部では声帯は腫脹し低濃度域を呈す(浮腫性肥厚)。気管は軟骨部と膜様部に一様な全周性の壁肥厚が見られ、やや低濃度域を呈す。
2.中枢側の気管支(区域枝、亜区域枝)にもびまん性の壁肥厚を認める。
3.左下葉のS8,S9に区域性の無気肺が見られる。またS10では胸膜に沿って胸膜下領域の末梢性の肺虚脱も伴っている。
4.左上葉には結節状の浸潤影が見られる。


キー画像1 気道熱傷

喉頭から気管分岐部までの上気道に瀰漫性の壁肥厚あり。
喉頭部では声帯部は腫脹し低濃度域を呈している(浮腫性肥厚)。
気管は軟骨部と膜様部に一様な全周性の壁肥厚が見られ、やや低濃度域を呈している:再発性多発軟骨炎との鑑別点


キー画像2 気道損傷

中枢側の気管支(区域枝、亜区域枝)にびまん性の壁肥厚と内腔狭窄を認める。


キー画像3 気道熱傷、肺損傷

中枢側の気管支(区域枝、亜区域枝)にびまん性の壁肥厚を認める。
左下葉はS8,S9に無気肺が見られる。また末梢性の肺虚脱も伴っている。
左上葉には結節状の浸潤影見られる。


キー画像4 Note: 末梢性肺虚脱

左下葉に見られる胸膜に沿った三日月状の病変は、あたかも胸水のように見えるが、実態は末梢性肺虚脱である。鑑別のポイントは、
1.病変の濃度が無気肺(S8,S9)と同等であり、水濃度ではない。
2.S10の比較的太い肺血管が病変部にまで連続。

Step4

疾病の解説と所見のまとめを見た後、再度画像診断を検討してください

本症の解説

気道熱傷の原因と機序

・火事による気道損傷の機序は上気道と下気道で異なる。喉頭部から気管までの上気道では熱風による熱傷で、それよりも肺側の下気道では燃焼したプラスチック類などから発生する有毒ガスを吸入することによる化学損傷が主体である。
・上気道の気道熱傷は、舌・喉頭蓋・披裂喉頭蓋ひだの腫脹を来し、喉頭部での気道閉塞が加わる。通常、熱傷を来すのは気管分岐部までである。
・下気道の化学損傷は、ゴムやプラスチックの燃焼によって発生する硫化物・二酸化窒素・アンモニア・シアン化合物・アルデヒドや強酸性・強アルカリ性の化合物が原因となる。これらによって気道の上皮損傷を来し、繊毛運動が傷害され、界面活性物質(サーファクタント)の喪失が起こる。損傷初期は気管支分泌が増加し、気管支の壁肥厚やスパスムによる内腔閉塞、界面活性物質の喪失に伴う無気肺、毛細血管の透過性亢進に伴う肺水腫などを来す。
・重症では受傷後12~48時間後にARDSが起こり、肺コンプライアンスの低下、肺血流・換気ミスマッチ、肺出血などを伴う。


気道熱傷のCT所見のまとめ

1.喉頭の浮腫性腫脹。
2.気管気管支の壁肥厚と内腔狭窄。壁肥厚は全周性(再発性多発軟骨炎との鑑別点)。
3.肺損傷:無気肺、肺虚脱などの所見や合併感染を示唆する浸潤影やARDSを示唆するすりガラス影など重症度によりさまざま。

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