症例07

疾患名・解説
症 例
70歳代・女性 血痰、微熱

Step2

診断名を見て、再度画像診断を検討してください

診断:気管支結石に合併した気管支肺放線菌症
(Bronchopulmonary actinomycosis associated with broncholithiasis)

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Step3

CT所見、用語(解剖)解説と病変所見のあるキー画像

キー画像の右側の“>”をクリックすると画像上の重要所見に矢印マークが現れ、さらに“>”をクリックすると所見のコメントが現れます。Thin-slice画像や白黒反転での読影にも挑戦してください。


画像所見の解説

CT所見

気管支、肺野
1.左下肺に数個の石灰化を伴ったダンベル(亜鈴)状の腫瘤性病変あり。
2.下葉気管支はB8を分岐したあとB9気管支が閉塞し、B10は開存している。このB9気管支入口部は、腫瘤の中枢側に相当し、10mm大の石灰化が見られる。気管支結石によるB9気管支の閉塞である。
3.B8気管支も壁肥厚と内腔の狭窄が見られ、やや尾側では上記の腫瘤に巻き込まれている。
4.上記病変の末梢側のS8とS9にはfinger-in-glove signが見られ、粘液栓塞の所見と考えられる。
5.また、S8,S9では無気肺像、浸潤像が見られる。末梢肺の虚脱や器質化肺炎を来していると考えられる。
6.この病変の肺門側には、気管支近傍に小さな石灰化リンパ節が見られる。S9肺内にも小さな石灰化が見られる。結核の治癒後の変化が疑われる。

そのほかのCT所見
肝左葉外側区に約10mm大の結節状の低吸収域あり。単純CTでは血管と等濃度域である。肝海綿状血管腫であることが、その後に施行された造影CTにて確認された。


キー画像1 気管支結石に合併した気管支肺放線菌症

1.B9気管支入口部の閉塞
2.B9気管支結石
3.気管支結石を取り囲むダンベル形の炎症性腫瘤
4.B9気管支壁肥厚と内腔狭窄
5.B8,9末梢の粘液栓塞


キー画像2 気管支結石に合併した気管支肺放線菌症

1.B9気管支入口部の閉塞
2.B9気管支結石
3.気管支結石を取り囲むダンベル形の炎症性腫瘤
4.B9気管支壁肥厚と内腔狭窄
5.B8,9末梢の粘液栓塞


キー画像3 末梢肺の肺虚脱と器質化肺炎

左肺下葉のS8,9に楔状の末梢性肺虚脱を認める。胸壁に接している虚脱部は器質化肺炎様である。


キー画像4 肝海綿状血管腫

肝左葉外側区に約10mm大の低吸収域の結節病変を認める。単純CTで肝内血管と等濃度である。肝海綿状血管腫が疑われる。その後の造影CTにて海綿状血管腫であることが確認された。

Step4

疾病の解説と所見のまとめを見た後、再度画像診断を検討してください

本症の解説

気管支結石に合併した気管支肺放線菌症

治療経過:気管支鏡で左B9の入口部に肉芽腫様病変と壊死物資の付着を認めた。同部位を生検し、病理診断で放線菌感染が強く疑われた。アモキシシリン(AMPC)の内服を導入し、症状は軽快したが、3年後、喀血と呼吸困難で再来院した。このときも止血剤と抗生剤にて症状は軽快したが、血痰と微熱が持続したため左下葉切除術を施行した。

病理所見:気管支内に結石あり。結石の周囲には放線菌の菌塊と、好中球浸潤、滲出物が見られた。周囲の肺実質には、炎症細胞浸潤に加え、線維芽細胞、膠原線維の増加、毛細血管の増加が見られ、器質化肺炎の所見であった。


解説:1.気管支結石

・気管支結石は気管支の内腔にある石灰化あるいは骨化した固形物と定義される。
・通常、気管支近傍の石灰化リンパ節が気管支内腔に穿破・突出することによって引き起こされ、多くは本例のように結核などの肉芽腫性病変に合併して見られる。そのほかの成因としては末梢肺の石灰化が気管支内腔に陥入し中枢側に移動したり、気管支軟骨の骨化したものが気管支内腔に突出脱落したり、吸入した異物を核として石灰化を来すなどさまざまである。
・気管支結石があると気管支閉塞を来し、末梢側では粘液栓、気管支拡張、無気肺、エアートラッピング、閉塞性肺炎などを来す。
・結石に合併する炎症性変化により気管支壁の腫脹・肥厚や内腔狭窄を来し、気管支鏡では結石を直接に観察するのが困難なことが多い。
・気管支近傍の石灰化リンパ節との鑑別は、thin-slice画像で石灰化が気管支内腔にあることを確認することと、気管支閉塞に伴う末梢肺の変化を捉えることで可能である。

解説:2.放線菌症

・放線菌はグラム陽性嫌気性糸状菌で口腔咽頭の常在菌である。胸部の放線菌症は放線菌の吸引により生じる化膿性炎症性病変で、肺実質に起こる肺放線菌症と気管支内に生じる気管支放線菌症に分類される。
・症状は咳、血痰、微熱で、ときに本例のように大量喀血を来す症例もある。
・気管支放線菌症は気管支内腔に放線菌の感染を生じるもので、気管支結石や異物(義歯、魚骨、豆など)に合併することがある。気管支壁には炎症性変化を伴い、遠位側には閉塞性肺炎を合併する。また経気管支的に末梢肺へ放線菌を散布し肺放線菌症を生じ膿瘍や空洞を形成したり、膿胸、胸壁浸潤、瘻孔を生じることもある。

気管支結石のCT所見のまとめ

1.気管支内腔の石灰化結節。
2.付随所見:末梢側の気管支拡張や粘液栓、末梢側肺野の無気肺・エアートラッピング・閉塞性肺炎など。
3.鑑別:気管支内異物(魚骨、義歯など)、気管支近傍の石灰化リンパ節。
thin-slice画像では石灰化の部位を同定することで気管支の内腔か近傍かを鑑別できる。
気管支内腔であれば魚骨などの異物との鑑別が必要であるが、既往エピソードの聴取が重要。

気管支肺放線菌症のCT所見のまとめ

・肺放線菌症は、区域性の浸潤影や腫瘤影を形成し、内部に膿瘍・壊死による低濃度域や空洞を含む。肺病変に隣接する胸膜肥厚や胸水を伴い、胸膜腫瘤、膿胸、胸壁浸潤、瘻孔形成などを生じることもある。広範な肺病変は時に葉間胸膜を超えて隣接する肺葉に進展する。リンパ節腫大を伴うこともある。
・しばしば結核後や肺炎後の部に2次的に感染するので気管支拡張や周囲炎症後変化を認める。
・気管支結石を伴う気管支放線菌症では、気管支内石灰化や周囲腫瘤形成、末梢側の無気肺、閉塞性肺炎や肺放線菌症の所見を認める。

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付録:3年後(手術前)、喀血時のCT画像(参考)

CT所見:

1.気管支結石を取り囲む炎症性腫瘤の増大が認められる。
2.両肺に多数の斑状の浸潤像と粘液栓が見られる。炎症性腫瘤部からの出血の吸い込み像と考えられる。


キー画像5 喀血、呼吸困難にて再来院したとき(3年後)のCT検査(安静呼吸下、息止めなしにて撮像):キー画像のみの閲覧

1.気管支結石を取り囲む炎症性腫瘤の増大が認められる。
2.両肺に多数の斑状の浸潤像と粘液栓が見られる。炎症性腫瘤部からの出血の吸い込み像と考えられる。